ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』を読んで 【なぜ左派は右派に勝てない?】

なぜ左派は勝てないのでしょう。近年、右派(保守派)の勢いが増しています。アメリカファーストを掲げたトランプが大統領選に勝利し、イギリスがEU離脱を遂げた頃から、社会の潮目が明らかに変わり始めました。日本でも保守政党と目される自民党が数々の失政にもかかわらず政権を維持し、都民ファーストの創設者である小池百合子が都知事に選ばれています。左派が勝てない理由について、アメリカの社会心理学者ジョナサン・ハイトの2014年の著書『社会はなぜ左と右にわかれるのか』を読んでいてなるほどと思うことがあったので書き留めておきます。

そもそも左派と右派の大きな違いはなんでしょう。一言で表すのはとても難しいのですが、誤解を恐れずに個人的な解釈を述べると、左派は上と下に分けたときの下に肩入れし、右派は内と外に分けたときの内に肩入れをしている人たちと言えると思います。左派は社会的に下層に位置する人々を守りたいと考え、右派は自分の属する集団内の人々を守りたいと考えるわけです。左派と右派をこのように捉えたときに、どちらが選挙戦で有権者の心を掌握しやすいのでしょうか。

重要なのは、左派が守りたいと考えるのが、自分が属する集団内の社会的弱者だけではないということです。右派が「自分の属する集団の一構成員」として自己を位置づけるのに対して、一般的に左派は、世界全体に目を向け、「世界市民の一人」として自己を位置づけます。左派は自集団に固執せずに、より一般的に社会的弱者を守りたいと考えているのです。一方で選挙に目を転じると、ある集団のリーダーを決めるのが選挙ですので、その集団の利益に目を向ける右派と、社会的弱者全般に目を向ける左派とでは、右派のほうが選挙戦を優勢に進めやすい。右派は語気を強めて集団の利益について語ることができますが、左派にはそれが難しいのです。ジョナサン・ハイトも次のように述べています。

一般に民主党支持者は、多様性を重視し、アメリカに同化しようとしない移民を支援し、英語を唯一の国語として扱うことに反対し、上着の折り返しに国旗をかたどったピンを刺すことを拒否し、世界市民の一員として自己を語る。1968年以来、大統領選で、民主党候補が有権者の前でうまく振る舞えなかったことになんの不思議があろうか。(P265)

左派を左派たらしめている道徳観が、選挙戦では足かせとならざるをえないのです。今、世界的に「拡大・成長の時代」が終わりを迎えており、先進国民の生活が上向かない状況が続いています。こうした状況下では、誰が悪いのかという犯人探しがはじまり、社会的弱者に白羽の矢が立てられることも珍しくありません。敵をつくることで、右派はさらに結束を固め、勢いを増しています。「拡大・成長の時代」が終わった今、より住みにくい社会へと世界的に変遷しており、気が滅入るばかりです。われわれはどこへ向かうのでしょうか。

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